GTR R35の性能
「自分の知る限りでは、雨もりの兆候は、確認できませんでしたよ。
どこか、違うところじゃないですか」「わかりません。
雨もりは、原因をつきとめるのが、難しいのですよ」僕は、そう言いながら、何気なく畳を見て、妙なシミがあるのを発見した。
最近つけたシミらしく、少し濡れていた。
僕は、腰をかがめて、よく確かめた。
すると、意外なことに、何かプーンとにおってきた。
まぎれもなく、小便のにおいである。
そばには、一升ビンが二本立っていた。
私は、はっとした。
誰かが酒を飲んで、ついでに立小便をタタミの上にしたに違いない。
酔っぱらいの立ションである。
僕は、ちょっと考えた。
まさか、高校の教師とあろう者が、立小便をするだろうか。
それも、タタミの上で、である。
冗談ではすまされないし、学校に知れたら懲罰問題になるだろう。
まずいな、と僕は思った。
ここはうまく話をそらす以外に、方法はあるまい。
「先生もずいぶん酒好きですね。
雨もりはなさそうですから、そのむね下の人に言っておきます。
水なんかも、まちがってこぼさないように、先生にもお願いします」「わかりました。
気をつけます」と、先生は、深々と頭を下げた。
僕は、言葉少なく話をして、先生の室をあとにした。
ついでに階下のoさんのところにより、調査の概略を話した。
「二階には、雨もりの跡はありませんね。
水でもこぼしたのでしょう。
注意するように、言っておきましたので」「そうお、変ですね。
でも、よかったわ」それから、今日までの四年間、何事も起こっていない。
先生も、立ションは、あれきりやめたらしい。
でも、僕の脳裏には、先生がフラフラ酔っぱらいながら、タタミの上に立ションしている姿が、鮮明に浮かぶのである。
それ以来、高校を通るたびに、先生を意識するようになった。
先生が、校舎のグラウンドを清掃し、ランニングしているのを、よく見かける。
先日は、生徒にサッカーを教えていた。
すると、僕は、「立ション先生、よく走っているな」と、彼を励ましながら心の中で、ニヤニヤするのである。
事務所に花はつきものである。
特に、緑は一年中必要である。
花や緑は、狭い事務所をゆったりした気分にしてくれるし、目を休ませてくれる。
人と人との接触は、営業になるときびしい。
岩と岩のぶつかり合いと同じで、ギシギシ音がする。
その上、金銭がからんでくる。
金はしょう油と同じで、少しの間は人間関係の調和剤となり味もいいが、多くなると血を変化させ、黒々としたものになる。
そんな時、ふと眼をそらすと、テーブルの上に花がある。
出窓にも花びんがあり、応接にも緑の木がある。
見ると、心がスーツと和らいで、肩の力がとれ、血の流れがよくなる。
元の落ち着いた気持ちに戻るのである。
十一時に事務所に戻ると、出窓の上の、真っ赤なチューリップの花が目にとまった。
高低の段差をつけて、白い花びんに、二本生けてあった。
「おや、きれいだね、誰が生けたの?」三人の女性は、いっせいに振り返った。
「iさんが持ってきてくれたのです」ベテランのS嬢が、新入社員の名を言った。
i嬢が、「昨日、スーパーで買ったの。
とてもきれいだったので、母と買ったのですけど、少し持ってきました」「ありがとう。
とてもきれいだよ。
なんだか、事務所がぱっと明るくなったみたいだ」「天気も晴れているからですわ」茶目っ気M嬢が、冗談を言った。
応接室を見ると、そこにも二本飾ってあった。
長い冬の間は、シクラメンしかなかったので、春の花は清々しい。
シクラメンの花は、四カ月も咲いていたので、くたびれてやせ細っていた。
生きのいいチューリップである。
ピンと背筋を伸ばして、赤く輝いて若々しい。
一本百円の花だな、と僕は思った。
毎日のようにスーパーに散歩するので、よく知っている。
最近は、スーパーも花を扱うようになった。
台北の花市場ほど迫力はないが、もう少しすると、ランの花が入ってくる。
どれも安い。
でも、値段ではない。
職場を明るくしよう、お客様に見てもらおう、という気持ちが嬉しいのだ。
不動産業は、堅く見られる。
実際は、明朗でおだやかな雰囲気も多いが、お客様はそうは見ない。
だから、事務所は明るく入りやすくなければならない。
物々しくかしこまった構えは、昔のものである。
恐いイメージは一掃して、やさしくしなければならない。
そのために、僕の店は工夫をこらしている。
玄関は低い方が入り易いが、失敗した。
事務所は借りているので、建てる時に思うようにならなかったのである。
そのかわり、一歩中に入れば、僕の苦心が随所に生かされている。
まず、カウンターは低いし、イスもゆったりしている。
内装も白くしているし、空間もある。
床の色調も、明るい大理石調である。
緑をほどよく配置している。
南洋系が多いが、メタセコイヤ系とユウカリのOもある。
カポックは、長年育ててきたものである。
それから、壁や天井にオモチャを飾っている。
飛行機の模型もある。
小さいお子さん用で、退屈しないように、サービスである。
隅の方には、原石で作った細工物。
サハラ砂漠とゴビ砂漠の砂もおいてある。
世界中を旅した。
僕の記念品である。
「春なのですねえ、まだ寒いから感じなかったけど、花を見ると、実感しますわ」田舎育ちのM嬢は、花が好きらしい。
「仕事、仕事の三月だけど、もう花が咲くね。
桜はどうしたかなあ、つぼみがふくらんだだろうか、土手の桜が、気になるなあ」「高校の庭の桜は、小さいつぼみですよ」花の方も、何万個の中の一個より、大きな一個になった方が、嬉しいに違いない。
翌朝、僕は犬の散歩コースを変更して、三桜の土手に向かった。
大木は静かに立っていたが、開花は、まだであった。
つぼみはだいぶ大きくなり、クの頭が少し見えはじめていた。
もう少しだな、と僕は思った。
近づいて、下枝の末端をのぞくと、花が二個だけ、恥ずかしそうに咲いていた。
「やあ、早いね」と、僕は声をかけた。
せっかく一番のりで咲いたのに、折るのも悪いな、と一瞬ためらった。
が、店に飾ってお客様に見せたい、という欲望には勝てなかった。
僕は、周りをそろりと見渡した。
誰も見当たらないのを確かめると、土手をかけ上り、枝を小さく折った。
急いで土手をおりると、犬は喜んで、もう一度かけ上るそぶりをした。
春の一番花を、誰よりも先がけて見るのは、宝石を見るより嬉しいことだ、と妻は言う。
勿論、桜は皆なのものだから、花を折るのは悪いことだが、残念ながら、桜の花は花屋には売っていない。
だから、求めるしかない。
求めて、飾って、お客様に喜ばれて、僕は大満足なのである。
この花は、房総では、三月から咲く。
僕は、てんてこ舞いの仕事の中で、なんとか店をきれいにしたい、と思っているのである。
アパートやマンションを借りるには、賃貸借契約をやる。
貸し手と借り手の約束事である。
と言えば格好よいが、実際は借り手をいかにコントロールするか、入居者としていかに義務を守らせるか、ということに腐心した契約にすぎない。
その証明として、貸し手としての家主の責任や義務を明示した契約書は、見当たらない、ただ一件を除いては。
その点、わが社の契約書は、もっとましといえる。
家主と借主を平等な立場でとらえて、家主の義務や責任も、だいぶ明記している。
だいぶ、というのには、意味がある。
今の時点で本格的それから、三つめに、退去時の修理精算がある。
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